カテゴリ:独り【退治屋】( 9 )

 

BTドレスさん版「独り」用書き下ろし

BTドレスさん版「独り」用書き下ろし
※BTドレスさんが「独り」をコミカライズして下さった際、
2話の後書きでジャンクスと忍が自分の出番をせがんでいたので、
本当に追加してみました!(笑)


・3(ミーナパート)の前か、後
※前の場合は夜、後の場合は時間帯はいつでも不自然にならないと思います。



 カイザー達が複雑な思いで過ごすこの星に、
複雑な関係を持ったふたりも人知れず、降り立っていた。
ひとりは低金利の金貸しの広告につられ。
もうひとりは、この星の政治の裏で進む「計画」を
円滑に進めるために雇われたシノビとして。


 「トイチよりたちが悪いじゃねーかっ!」
バンダナをつけた長髪の男、ジャンクスは
薄暗い路地裏で、店の中に怒鳴りつけた後、サウスストリートを歩いていく。
「やっぱりアンドロメダに頼むか……?」
呟いたのち、
「いや、アンドロメダはダメだ……」
がっくりと肩を落とす。
彼女(?)から金を借りようとすると、
熱烈に求婚されることを思い出し、ジャンクスは借金を諦めた。


「働くかー…働くしかねぇかー……。短期で割のいいバイトはねぇかな……」
ぶつぶつ呟いていると、後ろからマイクを差し出される。
ジャンクスは慌てて振り返った。

視界に飛び込んできたのは、
まだ初々しい印象の黒のストレートのロングヘアの女記者と
銀河TVの女カメラマンだ。
キャスターの「報道」と書かれた腕章が輝いて見える。新人なのだろう。

「…………」
「…………」
しかし、記者は顔を真っ赤にして硬直しており、質問してこない。
緊張しているのだろうか?
「ご苦労さん。記者さんが、何の用?」
可愛いなと思ったジャンクスは、若い女記者の頬をつついてみた。
「……はっ! 申し訳ありません、私ったら。
 …大統領選挙が近づいて参りましたが、
 貴方はこの星の政治について、どうお考えですかっ!?」
ストレートヘア記者は、つつかれた頬を触りながら質問してくる。
目を背けているのは、ミスが恥ずかしかったからなのだろうか?
「すまん、俺は退治屋だ。旅行者と一緒で、詳しいことは知らん」
「はぁ……そうですか」
そうですか、と返答している割には、最初から納得しているような顔もしている。
この少女記者は何者だろうか。
……まぁ、そんなことはどうでもいい。
「お前、俺の知ってる子とどこか似――」
ジャンクスがいいかけたところで、カメラマンがジャンクスを豪快に蹴り飛ばす。

「セクハラ退散!!ほら、次行くよ次!」
「はいっ、それでは失礼しますっ!その…本当に失礼しましたっ!」
慌ただしい記者達は、南へと走っていった。

「夜遅くまで、大変だねぇ」
ジャンクスは蹴られた部分をさすりながらにやりと笑うと、北へと歩き出す。
次の星へ行くための、燃料費を稼ぐバイトを探すために。

---
※BTドレスさんはこの手の絵面が非常に面白いので
どんな風にどこを蹴ったかは敢えて指定しませんね(笑)。
---

***

 「あうぅ~、こんなところで会ってしまうなんて~!」
記者の姿に扮した忍が、走りながら顔を真っ赤にして呟く。
「任務中には何があるか分からないって教えたろ。
 もう油断しちゃダメだからね?」
女カメラマンは、忍の姉弟子、月影だった。



・4(最終話)の後のおまけシーンとして

 忍は退治屋の友人と会うときに来ている装束に着替えると、
長い髪を高い場所で結い、ポニーテールにする。
「ちょっと、そんな格好をしてどこ行くんだい?任務はもう終わったよ」
忍の後ろから音もなく現れ、止めるのは月影だ。
「どうせ、しばらくはこの星に缶詰です。退治屋の友人に会ってきます!」
「退治屋の…って、あのオヤジ!?ほんっと好きだねアンタ」
「大好きなんです!」
満面の笑みで、忍は船から下り、走って行く。
「あんなのが相手ってのはどうかと思うけど……青春するのは良きことかな。
 恋をしなよ、忍。恋の記憶はいずれ、くノ一の武器になる」
不敵な笑みを浮かべると、月影は船の中に戻っていった。
「素直なのが、あんたの良いところさ」


忍達の任務は、この星の「ふたりの」次期大統領候補の暗殺計画の片方の阻止だった。
どちらの計画を潰すかは、師に「己の目で見て決めろ」と告げられたため
自分たちで情報を集め、自分たちの判断で片方の計画を潰した。
決戦の夜、命のやりとりがあったことは説明するまでも無い。

どちらの候補にも既に暗殺者が放たれていたため
ふたりともが死んでしまえば、この星は混乱に陥ってしまう。
それを未然に防げというのが、師の命令だった。


 「ジャンクス殿~!」
「おわっ!?」
バイトチラシを抱え込んでいたジャンクスは、後ろから抱きつかれて
チラシを盛大にばらまいてしまった。
「さっき、ちらっと姿を見かけましたので!
 ジャンクス殿も、この星に缶詰なのですね。私とどこかに出かけませんかっ!
 せ、折角ですし!宇宙(そと)にも行けませんし!!」
「忍……」
ジャンクスは忍の顔を、しばらく、じーっと見つめる。
「ジャ、ジャ、ジャンクス殿!?」
忍の顔はどんどん赤くなっていく。
「人違いか……。そもそも、お前だったら今みたいにドーンと来るしな、ドーンと」
ケラケラ笑いながら、ジャンクスはばらまいてしまったチラシを指さす。
「あううううう!!申し訳ありません、申し訳ありません~!」
ジャンクスと一緒に、チラシを拾う忍。
「ちょーっと豪遊してみたらこの有様よ。ちゃんとバイトが見つかるといいんだが」
バンダナを締め直しながら、ジャンクスが言う。
「……あ、これなんてどうですか?
 バイトチラシに偽装している、リブフリーに依頼しない蟲退治の依頼ですよ。
 きっと危ない依頼ですね。だってこんなに報酬が高い」
「俺はリブフリーのブルーマスターの退治屋だっ!速攻で闇ルート勧めんな!!
 まったく、そういうところはしっかりシノビだな」
退治屋を名乗る者の7割がリブフリーの傘下、
残る3割はリブフリー社に所属しない野良の退治屋と言われている。

「あはは……やっぱりダメでしたか。これなら一緒にバイトできると思ったんですが」
「……ん?」
「いいえ、何でもありません」
忍は幸せそうな顔で、ジャンクスに次のバイトを勧める。
ジャンクスは、無事燃料費を稼ぐことができるのだろうか?

(おしまい)



・本当におまけ
ロゼッタがバーで仕事をしたら、すぐにお金は貯まったらしい…。

(おしまい)

---
※こんな感じで如何でしょう!?(笑)


2016.3.19.
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  by bluecastle2 | 2016-03-19 01:26 | 独り【退治屋】

独り【退治屋稼業】目次

短篇です。
今回は各編に副題がないので、
そのまま「次のページへ」を押して頂けば
続きが読めますが目次も作っておきますね。

   
あとがき

BTドレスさん版コミカライズ用書き下ろし「忍とジャンクス」(2016.3.19.)

独り 番外編

独り 完結編

たぬくまさんによる挿絵がついているページがあります!
たぬさん、ありがとうございました!

※完結編のみ、諸事情により
サウンドノベルゲーム形式のテキストになっています。
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:14 | 独り【退治屋】

 …燃料補給のためだけに、降りた星での出来事だった…。

街はそれなりに賑わっていて、人混みの中カイザーは
本屋の前である本の袋とじの中を必死で覗こうとしている。
しかしカイザーは、普通の人とは違う“気配”を感じ振り返った。
「あれ?フェイス?」
宇宙船で待っていると言っていた筈のフェイスの横顔が、
カイザーの視界に入る。
カイザーは立ち読みしていたエロ本を放り投げるように棚に戻し
彼の後ろ姿を追いかけた。
「無視すんなって!」

追っても呼んでも、フェイスは振り返らなかった。
「機嫌悪ぃのか!?おーいフェイスー!」
彼の早足に追いついたカイザーは、フェイスの右肩を掴んで振り返らせる。
「…なんだ?」
フェイスはいつもの落ち着いた口調で…しかし
まるで赤の他人に捕まったとでも言いたげな雰囲気でそう言った。
「“なんだ?”って…。いや、何でもねぇけど…。
俺が白昼堂々とエロ本読み漁ってたのがそんなに嫌な訳?
お前もいつもコッソリ覗いてんじゃん」
カイザーは肩をすくめる。
「? …何のことだ?」
フェイスは不思議そうな顔をして、カイザーの手を振り払った。
「そんなよそよそしくすんなって」
「…人違いではないか?私は急いでいるのだ。…失礼する」
彼は不快そうな顔をして、去っていってしまった。
「…………?」
カイザーは頭を掻く。
フェイスは確かに大人しい男だが、
自分にあんな態度を取ったことはあまりない。

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挿絵:たぬくま様

 カイザーは両手が塞がるほど本を買うと、宇宙船に帰っていった。
退治屋、と聞くと一見、少し悪そうで格好いい職業だが
実際には星間移動の際の暇つぶしの辛さと言ったら。
ワープには金がかかるので、普段はのんびり星の海を渡っているのだ。
「ただいまァー」
少し低い声で言いながら、カイザーは宇宙船に入る。
「おかえりニャー」
「…遅かったな」
そこには、ミーナとフェイスの姿があった。
「あれ!?フェイス、早ぇな!急ぎの用って何だったんだ?」
カイザーは口をぽかんと開ける。
「…?」
「何言ってるニャ?
フェイスはずーーーっときんぎょの近くでで留守番してたニャ。
燃料の種類を間違えられたら大変だし…。
今日は私もいたよ」
ミーナは腕を組み、フェイスの方を向いた。
「うむ。…人違い、ではないか?
実際、燃料補給担当の者が新人で、逆に俺が教えていたくらいだ。
宇宙船からは片時も離れていない」
フェイスは洗濯前の、燃料でドロドロになったコートを見せた。
「……へ?」
カイザーは、持っていたものをドサリと落としてしまった。
「何かあったの?」
「……いや…今日、街で…フェイスを見たと思ったんだ、け…ど…」
ミーナに訊かれて、カイザーは答える。
「俺を?」
フェイスは不思議そうな顔をした。
持っていたコートは、部屋の隅に放ってしまう。
「あの人混みの中で足音殺してる変な奴がいたからさぁ…
つい振り返ってみたら、お前ぐらいの背丈で
お前と同じ色の髪の男で…コートもお前のと似てたし…」
カイザーはその時の状況を説明する。
「足音…か」
「しかも歩幅がめっちゃ正確なんだって!
ありゃ軍人か元軍人だよ。だからお前だと思った」

限りなくフェイスに似た男。
しかし、他人だったらしい。

「…傷は?」
ミーナが訊いた。
「え?」
「“え?”じゃないでしょ!
フェイスの顔にはでっかい傷があるニャ!
傷まであったんなら、もしかしたら偽物登場かもしれないニャ!」
ミーナはカイザーをどつく。
「に、にせもの…。
つーか、傷はわかんねぇ」
カイザーは頬を掻きながら目を逸らした。
「顔は見なかったのか?」
「いや、見たんだけど…その、横顔?
右側しか見てないんだよ、俺」
カイザーの姿勢が徐々に低くなる。
「右側しか見なかったぁ…?」
ミーナは張り手の構えを取る。
「だ、だってよ!あいつすげー刺々しい雰囲気でさ!
近づきがたいってーかなんてーか…」
「問答無用ニャ!」
ミーナが飛びかかってくる瞬間、カイザーは前転してそれをかわした。
「だから、見てないモンは見てないって!」
「口答えするニャーーーー!」
しばらく、カイザーとミーナの乱闘が続く。
「…船内で暴れられると困るんだが…」
フェイスは頭を抱えた。
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:11 | 独り【退治屋】

 夕食後、各自部屋に戻る。
燃料補給が終わった時点でこの星を発つ予定だったが
気になることがあるので滞在期間を延ばした。

各自の部屋、と言ってもカイザーとフェイスは相部屋だ。
カイザーは今日買ってきたエロ本を寝転がって読んでいた。
「…カイザー。昼間の奴の話だが…」
「んー?」
帰ってきたときとは裏腹に、カイザーは興味なさそうな態度で応える。
「お前はその者を、俺と勘違いしたのだな?」
フェイスは珍しく、積極的に訊いてくる。
「したぜー。絶対お前だと思った。
でもどっちかってーと今のお前と言うよりは昔のお前って感じかな。
よく考えたら、仕事中以外はお前足音殺してねーもんな」
「…その道の者には、逆に怪しまれるからな…。
実際、人混みの中でもお前はそいつに気付いたのだろう?」
「ああ」
カイザーは仰向けになる。
「カイザー、俺は」
「いーよいーよ。聞きたかねぇ」
「……そうか」
言葉を遮られたフェイスは、むしろ穏やかな表情だった。
まるで、何かに安心したような。



『カイザー、俺は…“作られた生命体”だ』



息もしているし、心臓が動いている。
多くの血を流せば死ぬし、感情だってある。
しかし、フェイスは…。

f0062753_1921492.jpg



















挿絵:たぬくま様

フェイスは立ち上がると、替えのコートを着た。
「なんだ、行くのか?」
カイザーは本の上から少しだけ顔を出して言う。
「…朝には戻る」
「別に、いつでもいーぜ。滞在期間2週間ぐらい延ばしたし。
あー、俺がこの本買ったのはノースストリートの小さい本屋だ。
奴はもっと北に向かってたね」
コートを着ながらフェイスはカイザーの顔を見ようとした。
…が、本に隠されて見えなかった。
「…恩に着る」
「着るな、気色悪い」
「……行ってくる」
フェイスは部屋を飛び出していく。
その瞬間、廊下の影に隠れた人物がいた。
言うまでもなく、ミーナだ。
彼女はフェイスが宇宙船から出て行くと、忍び足で自分の部屋に戻ろうとする。
「ミーナ~ぁ。盗み聞きは宜しくねーなーぁ」
カイザーがわざとらしく呼ぶ。
「だ、だって気になるニャ!カイザーは気にならないの!?」
ミーナは姿を現し、カイザーに訊く。
「…ならねーな」
素っ気なく、答えた。
「そっくりなんでしょ!?それって…」
「兄弟かも知れないし、他人の空似かもな。
広い宇宙には自分にソックリの奴が3人はいるらしいからな。
…お前が言うように、偽物かも知れねーし」
「偽物はあり得ないニャ!
グリーンマスターの退治屋のメンバーに化けるメリットなんか無いニャ!」
「……おまえな…」
自分で言っておいて、そんなことを言う。
それがミーナだ。
「…カイザー…」
しばらくの沈黙の後、大人しい声でミーナが呟く。
「なんだよ」
「…胸が痛い…」
ミーナは視線を床に落とした。
「んん?それって触ってくれって意味?」
カイザーはエロ本を畳んで、ミーナに近づく。
「バカッ!!!」
彼女はカイザーの頬を思い切りひっぱたくと、部屋から出て行った。
自動式のドアが規則正しい音で閉まる。
「ヘッ、ミーナの胸なんかこっちから願い下げだっつーの」
カイザーはまた寝転がる。
その頬には、細い水の線が流れていた。
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:10 | 独り【退治屋】

 「寂しくなんか無い…寂しくなんかないニャ…」
ミーナは独りのベッドで呟いていた。

自分には家族はいない。
カイザーにも家族はいない。
フェイスの過去に至っては、謎だらけだ。
“フェイス”という名前自体、カイザーが勝手に付けたらしい。
折角フェイスが何かを話そうとしてくれてもカイザーが話を遮るし
実際聞きたくないと思う日の方が多い。

ミーナから家族を奪ったのは…
間接的にとはいえフェイスだからだ。

しかしフェイスを大切に思う気持ちに嘘はないし
いつだって強くて頼りになるいい仲間だ。


でももし、フェイスに“家族”がいたら?

フェイスだけ、家族を持っていたら?
自分はどう思うのだろう。
ミーナは自分でも予想が付かなかった。

喜べるだろうか。
それとも、妬むのだろうか。

…わからない。
なにも、わからない。


ミーナは部屋の明かりを消した。
闇は、まるで自分の全てを呑み込もうとしているようにも思えたが
むしろ飲まれて消えてしまいたい気分だった…。
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:09 | 独り【退治屋】

 朝、カイザーは目を覚ます。
欠伸をし、腕を伸ばす。そして隣を見た。
…フェイスは、いなかった。
「自分で勝手に約束して自分で破るなっつの」
呟くと、カイザーは部屋から出る。

何か、良い匂いがした。…食べ物の匂いだ。
もっと具体的に言うと、パンの焦げた匂いとベーコンの香りがする。
カイザーはダイニングに向かった。
「ミーナーァ。パン焦がしたのか?」
彼は欠伸をしながら、キッチンに入る。
「フェイス!パン焼きすぎっ!
ニャーーーーベーコン焦げたーーー!!」
そこには、なにやらおぼつかない様子で
オーブンとにらめっこしているフェイスと
彼に教えている間にベーコンまで焦がしてしまったらしいミーナがいた。

「あんれ?」
カイザーは目を丸くした。
「カイザー邪魔ッ!そこどいて!」
彼が立っているのはまさにシンクの前。
フライパンを洗いたいミーナにとってカイザーは究極に邪魔な物体だ。
「なーんでフェイスがパン焼いてる訳?」
カイザーはその場を退きながら、訊く。
「朝起きたらー、フェイスがパン焼いてたニャ。
でも、真っ黒焦げだったニャ。
私が焼くって言ったのに、聞かないで何枚もトースト無駄にしてるニャ」
「…何TNぐらい?」
「カイザーより1000倍まし」
フライパンに焦げ付いたベーコンを落としながらミーナが答える。
「ふーん…。野暮なこと聞くけどー、フェイス、
てめーいつ頃帰ってきたんだ?」
カイザーが訊いた。
「……夜明け前だ。
俺に似た人物とやらはお前がここに帰ってきた頃には
もうこの星を発っていたらしい。出航ポートの係員に訊いてきた。
あまりに似ているから、向こうも驚いていた」
「いきなり出航ポートかァ」
カイザーは頭の上で腕を組む。
「あの時間ではどこの店も開いてないだろうしな。
それに、“急ぎの用”でここに来たのなら、
用が終われば急いで星を発つ可能性もあるだろう?」
「フェイス、賢いニャ。カイザーの情報は全く無駄だったニャ」
「なんだと!」
カイザーはミーナの発言に少し怒った。
「私に反抗すると朝ご飯抜きニャー」
「…っ、くっそー…」
カイザーは機嫌を損ねて、ダイニングに入った。
椅子に座り、朝食が出来るのを待つ。
「急いでやってきて急いで発つってことは、
イリーガルで雇われた暗殺者とかかなァ…」
彼は、誰にも聞こえぬように呟く。

「…悪かったな」
フェイスが言った。
「何が?」
キッチンのミーナと、ダイニングのカイザーが同時に聞き返した。
「…………無駄に時間を取らせた」
「カイザーのTN無駄遣いに比べたら可愛いモンだニャ!
気にしない気にしなーい」
「ミーナの洋服選びの時間よりはよっぽど短かったな」
「…そうか」
フェイスは、やっとうまく焼けたトーストを取り出すと、皿に乗せる。

『速報ー!速報ー!あーちゃんの朝のニュースだじょー!!』
突然、あーちゃんが騒ぎ出した。
「朝からうるせぇよ」
『この星の次期大統領候補が暗殺されたじょー!
だからしばらく、滞在中の旅行者と退治屋はこの星に缶詰だじょ!!』
「何っ!?」
カイザーは立ち上がる。
「マジか!?で、犯人は!」
『わかってたら旅行者と退治屋を足止めしたりしないじょ』
「…………」
カイザーはゆっくりと、フェイスの方を向いた。
カウンター越しに見えるフェイスの顔は、落ち着いている。
「…俺に似ているらしいその男は、顔に傷など無かったらしい。
多少厄介なことになるかもしれんが、なんとかなるだろう」
フェイスの傷は随分昔に塞がっているので、
傷を付けてごまかしたなどと勘違いされないという意味だ。
「…ふぅ」
カイザーはまた腰掛けた。
「目玉焼きーベーコーン、サラダー、あとフェイス特製トーストー♪
今日の朝食は豪華だニャ」
「…いつもと同じじゃねぇか」
「…心が豪華だニャ」
ミーナは料理を食卓に置きながら、言う。
「……そうだな」
カイザーは微笑した。
「食うぞーフェイスー、何やってんだー?」
「オーブンの焦げが取れない…」
フェイスは神妙な声で答える。
「そんなの後で私がやっとくから、フェイスも早く食べに来るニャ!」
「しかし…己の失敗も己で始末できぬようでは…」
「ごちゃごちゃ言わずに食い来い!」
頑固なフェイスをカイザーが呼ぶ。
「う、うむ…。では後で掃除する」
フェイスもダイニングにやってきた。
「フェイスは生真面目だニャー。
カイザーなんか皿を並べてもくれないニャ」
「うるせぇな。冷めるぞ」
カイザーは頭を掻く。


「頂きます」


3人は、朝食を始めた。
フェイスに似た男の正体は知れない。
だが、そんなことはどうでもいい。

…いま、ここに…家族がいるではないか。


Fin
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:08 | 独り【退治屋】

あとがき

私の拙いテキストを読んでくださり、ありがとうございました。
いかがでしたか?

…最初に謝っておきます。
うちのカイザー一行の主婦はあくまでミーナ、料理もミーナ、カイザーは態度がでかい兄ちゃんでフェイスは優しいけど不器用な兄ちゃんという設定です。退治屋本家では「フェイスが主夫」説が有力と言うよりデフォルトになってきていますが、それでもミーナ主婦説にしがみつく私を許してください…。



今回は数時間で書き上げてしまった結構荒っぽい文章なので
地の文が少なめになっています。

が、地の文が少なめというのは新しい試みでもあります。
退治屋でテキストを書く場合、「原作部門投稿」ということになるので
コミカライズ前提で文章を書かなければなりません。
そこで、敢えて地の文を減らし気味に書いてみました。


地の文は情景描写だけに。
キャラの台詞にアクセントを。


…ってあたりを特に意識しました。

また、フェイスの設定ですが退治屋本編S04のSWAT編(きのえねさん)の後編Aの台詞を曲解(爆)しました。またもや勝手にネタを使ってしまってごめんなさい。(…とりあえず、公開前にタヌー会長から「パラレル可」の許可は貰いました)それと「軍人~云々」に関してはかなり適当です、その手のネタに詳しい人が読んだらすぐにボロが出ます。適当に読み流してください(土下座でお願い)。…元軍人というネタはGRMさん設定からも頂いています。

曲解についてですが、後編Aの「作られた存在」というのが精神的になのか肉体的になのか、その辺はSWAT編では語られていません。私は勝手に「肉体的に」と捉え、ターミネーターのように同じ顔の奴がその辺うろついてるかも、みたいな解釈をしてみました。本当のフェイスの素性は、3.16リローデットを待て!といったところでしょうか…。(すみません3.14だったかもしれないです…検索しましたが出てきませんでした…orz 情報求ムでございます)←偉そうに言うな!

ラスト、あーちゃんの速報ですが…文章としてはカイザーの台詞で留めましたが言うまでもなく、フェイスに似た男の犯行です。これも結構適当な資料しか読んでないのでガタガタなんですけど(いい加減にしろよ…)退役後の軍人がイリーガルで雇われて暗殺者になる、という例があるというのを聞いたことがあるので、詳しく調べもせずいきなり使っちゃいました、すみません。(スピード命ということで…)


このネタが生まれたのは、退治屋絵板の[622]の記事、「全開笑顔のフェイスを描いたら別人にしか見えないっ!」でした。その前の[621]のプラ太さんのアイコン記事で、「全開笑顔のフェイスのアイコンがあれば…」という話から私が笑顔のフェイスを描き、描いた後でこのネタを思いついたというある意味奇跡的な自己誘爆です。…勝手にやっとれ、って感じでもありますね(笑)。

作中に笑顔のフェイスは出てきませんでしたが、似た奴がいたら、カイザー一行の心境はどうなるのか…?という話にしてみました。


もし宜しければ、感想など頂けると嬉しいです。
ありがとうございました!

■[622]がどんな絵だったか見てみますか?
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:08 | 独り【退治屋】

独り 番外編

 宇宙を彷徨う黒い船の中で、ひとりの男が頭を抱えていた。

『俺が白昼堂々とエロ本読み漁ってたのがそんなに嫌な訳?
お前もいつもコッソリ覗いてんじゃん』
12号は、任務を終え騒ぎになる前に星を去った後も…
あの、金髪に青いタトゥーの男の顔が忘れられない。

金髪の男は、自分を『フェイス』と呼んだ。
そう、勘違いした。

軍がバラバラになった後、
賊軍の元軍人が生き延びる術は多くはなかった。
そのスキルを生かし、裏の世界で活躍するのも手のひとつだ。

だが、自分に似たその男は…なんだったのだろう。
勘違いされるほどに似た男。
間違いなく、同時期に“量産”された生命体だろう。

しかしその男には名があった。


『フェイス』―――――。


その名が元からあったはずがない。
誰かが勝手に付けたのだろう。
だが、そいつは“名”を持っている…。

私は12号と呼ばれている。
機械的と言い切っても良いまでの腕の良い暗殺者として、
あちこちの星の要人に雇われる。
それを、不服に思った日などなかったはずだ…。

それが、一番の道だと思っていたはずだ。


『フェイス』。

奴は、何者なのだろうか?

12号は駄目モトで、コンピュータで『フェイス』とやらを調べた。
奴のデータは、いとも簡単に見つかった。

“退治屋カイザーのチームメイト”として
リブフリー社に正式に登録され、素性はともかく
表の世界で堂々と生きている…らしい。


「…………っ!」

12号は、訳もわからず、机を叩いた。
机にあったティーが、少し揺れた。

「それが、何だというのだ…?
私に何の関係がある!私は私だ。奴は奴。
…私は…何を考えている…!?」


羨ましい、のか?


ふと、思った。
「そんなはずは…ない」
彼は自分に言い聞かせるように、呟く。


『俺が白昼堂々とエロ本読み漁ってたのがそんなに嫌な訳?
お前もいつもコッソリ覗いてんじゃん』


金髪の男の言葉が、また聞こえる。



羨ましい…のか?
同期の者が、表の世界で生き…仲間まで持っているという事が?
そんな、ちんけなことが?



仲間意識や友情など、仕事の邪魔になるだけだ。
だから友人など必要ない。ずっとそう思ってきた。
しかし、同じ顔をした『フェイス』は…自分の真逆を生きている。
奴は、それに満足しているのだろうか?
それとも、そのうち“カイザー”とやらもうまく殺して
自分が“退治屋”になるつもりだろうか?

…わからない。



12号は、初めて抱くこの感情が何なのかわからなかった。
『フェイス』が何なのかもわからなかった。

初めて、“迷い”を感じた…。


ピピピ、という高い音で、緊急連絡の着信音が鳴る。
12号は画面を即座に切り替えた。

『貴様を呼び出したのは他でもない…
秘密裏に消して欲しい邪魔なムシケラがいるのだ。
そのムシケラの名は…… … …』

画面の中の依頼人は、いつも通り、
自分に都合の悪い人間の暗殺を依頼してきた。

「…了解した」
12号は答える。
『…信じているよ。頑張ってくれたまえ』
依頼人はそう言い残すと、通信を切る。

12号は船の行き先を決めた。
次なる仕事の場だ。


『フェイス』が何者なのかはわからない。
興味がないでもない。
だが、深く知ろうとすれば、自分が自分でいられなくなる気がした。


12号は今日も働く。
まるで、道具のように。
心のない、殺人機械のように。


Fin

----------------------------------------------------
バッドエンド的ですが、真の裏の世界の住人の彼にはピッタリの終わり方かと…。
フェイス2号君(今回は12号にしました)は完全にターミネーターと同じ扱いです。
きのえねさんの作品の行く先とは大分ズレてると思いますので、ご了承下さい。

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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:06 | 独り【退治屋】

独り 完結編

f0062753_1153477.jpg
独り 番外編の続き…そして本当の完結編です。
このテキストがなかなかまとまらなかった大きな理由は、「結末が決まらない」事でした。12号…彼には様々な結末が考えられる。その、どれを選び取って書けばいいのか…正直、まよってばかりでした。

そこで!

もういっそ、結末は読んでくださってる方に決めて頂こうと思いまして。それ故に、テキストでありながらサウンドノベルゲーム形式となっています。結末は3つあります。そのどれもが、12号にとって正しい結末なのだと私は思っています。

どうぞ、よろしくお願いします。


□独り 完結編(1.9M)
http://big.freett.com/eternal_blue/alone.zip
(諸事情により、リンクによるDLができません。
アドレスをコピペしてDLしてください…お手数おかけして申し訳ありません)

#関連記事(蒼城本家ブログ)

□あとがき
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  by bluecastle2 | 2006-05-01 16:04 | 独り【退治屋】

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