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凍てついた船 番外編

 宇宙船で留守番していたカイザーに、突然通信が入る。
それも、リブフリーのトップたる
タヌーからの直接通信だと言うのだから
とりあえず形だけでも慌ててコックピットの
本格的な通信機器のもとへ向かわねばなるまい。

カイザーは通信機器の前に立つと、こう言った。
「なんだァ、依頼か?
そんなの係のネーチャンにやらせりゃいいのに」
その言葉を聞き、タヌーはクスリと微笑む。
『いいえ、私事(わたくしごと)での通信です』
「何ィ!?社長サマが私事で俺様に通信か!
そうかそうか、無試験でゴールドマスターにしてくれるんだな」
彼は一瞬驚いた後、腕を組んでうんうんと頷いて見せた。
『…ふふふ、相変わらずですね。残念ですがそれは違いますよ』
「…わぁーってるよ。じょーだん、冗談」
カイザーは不機嫌そうになって、足で床を軽く蹴る。
『その後“病状”はどうですか。体調などは?』
カーズの蟲事件の時の事だ。
カイザーはカーズの作った蟲に“感染”した。
「そんなんお抱えの研究者に訊かせりゃいいもんを、丁寧なお人だねェ。
特に問題ねーよ、俺の思考を解析されちまうってのは
どうも気に食わねぇけどな。でも、奴もそれが狙いだったんだろ?
感染したことにさえ気付かないウイルス…だからこそ、悪質なんだ」
彼の顔は険しくなる。
『ええ、彼女…サラも目立って悪くなったところは無いそうなのですが、
嫌な…でもごく当たり前の事が判明しましたから』
タヌーは少し横を向いた。表情を見られたくないのだろうか。
「ん?」
『あの“蟲”を作る際に実験体とされた人間が
次々に辛い症状を訴えるのです。死亡してしまった者もいます』
「まぁ、ウイルスの開発に動物実験と人体実験は不可欠だわな」
『カイザーっ!』
ヘラヘラと笑ってみせるカイザーに、タヌーは少々怒った。
だがその怒りの中に、心配のようなものの見えた。
「…何を怒る?退治屋なんて、いつ死んだっておかしくねぇ商売だろ」
『…………』
「死を恐れるようじゃ、蟲退治は務まらねーよ」
得意そうなカイザーの顔をしばらく見つめた後、
タヌーは普段の…“リブフリー社社長”の顔に戻ってこう言う。
『これだけは、言いたくなかったのですが』
「は?」
『あなたのBTの浪費は、どこか不自然ですね。
折角貯まりかけているところで、一気に使ってしまう…。
TNも同じ事なのでは無いですか?』
「げっ…」
カイザーは一歩引いた。
何故か、タヌーとミーナの表情がダブって見える。
『各退治屋のBTの使い方は、社で調べることができますからね。
TNの方は、さすがに無理ですが』
「な、何が言いてぇんだよ!つーか、何が目的だ!?
しがないグリーンマスターの退治屋にっ!タダ働きでもさせる気か!?」
カイザーは冷や汗をかいている。
『その“しがないグリーンマスター”が気になるのですよ。
実はランクアップする気など、無いのでは?』
タヌーはまた、微笑んで見せた。
「ハァ?ランクアップしたくねぇ退治屋なんかいるわけねーだろ」
カイザーは肩をすくめる。
『どうでしょうね?今、社の研究員に調べさせれば
あなたの考えていることが解析できますが…』
「お、おいおい…」
やたら余裕のタヌーに、カイザーは押されっぱなしだ。
“半病人”なのをいいことに。
『ご安心を。そのようなことをすれば
リブフリー社の信用が落ちてしまいます』
「……本っ当に…今日のあんたは何が言いてぇんだ…!?」
カイザーは台詞とは合わない…鋭い目でタヌーを見る。
『わかりませんか?』
「わかんねーな」
カイザーは舌打ちする。
『残念ですね。では、またの機会に…』
タヌーは通信を切ろうとした。
その瞬間、カイザーが口を開く。

「へーへー、俺の負けですよ、“閣下”。
あんたは俺の考えに気付いてんだな?セコい解析もせずにさ」
機嫌の悪そうなカイザーの顔を見て、タヌーは笑う。
『やはり、そんな風に考えていたのですね。…私のことを』
「………あぁ」
カイザーは真剣な表情に戻った。
「あんたはサラと同じだ。誰もが自由なこの宇宙での唯一の犠牲者。
確かに今はリブフリーのトップがあんたであることで宇宙が繋がってる。
だが、タヌー亡き後の宇宙がどうなるか…
それはあんた自身、前俺に話したろう?」
『…………』
カイザーは通信機器のモニタに顔を近づけた。
「いち退治屋にいちいちそんなにかまってたら
ストレス過多で寿命より随分早くお迎えが来ちまうぜ?」
『ニャニャ星人と行動を共にしていながら、
ニャニャの平均寿命を知らないのですか、カイザー?
ヒューマンの数十倍は…』
「それでも、いつか迎えは来る。天からのな」
カイザーの言葉に、タヌーは初めて言葉を詰まらせた。
『…………』
「ま、俺は良い子ちゃんじゃねぇ。
宇宙を自由に動き回れなくなると俺が不都合になるから、
こんなことを考えてるだけさ」
タヌーはすっかり、大人しくなってしまった。


 『カイザー、あなたは』
暫しの沈黙の後、
タヌーが何か言おうとするところでカイザーはそれを遮った。
「3年、待て」
カイザーは指を3本立てて、ニヤリと笑う。
『?』
「サラの解放は1日で終わったが、あんたのは3年はかかる」
『…随分と短いですね。3年とは』
タヌーは少し焦ったような表情で…言った。
するとカイザーは、急にくるりと後ろを向いて肩をすくめる。
「あ~ぁ、やっぱハイミスを落とすのは難しいなァ…。
これが見た目通りのお嬢さんなら、
今の台詞だけで無試験でゴールドマスター免許くれるのに」
『…カイザー…』
低い声で、タヌーはカイザーを呼ぶ。
「何?」
『残念ながら、私はハイミスではありませんよ。
あなたは私とミーナの違いも見ていないのですか?』
「……げっ」
タヌーは画面越しに、猫手ではない手を見せる。
ニャニャ星人が猫手を外すのは、配偶者ができたとき。
『ふふふ』
「あ、あははは…ははははは…」
彼はまた冷や汗をかき始めた。
『新種の“蟲”発見の功績に免じて、
今の言葉は聞かなかったことにしてあげましょう』
タヌーはひたすらに、笑顔である。
「あんたの笑顔は凶器だぜ……。ジャイアント張り手よりおっかねぇ」
カイザーは呟いた。
『何か?』
「な、なんでも!」


 退治屋カイザーが全宇宙にその名が知れ渡る伝説的人物になるのは、
この3年後のことである。
そして、彼を祖とする“銀河連邦”が誕生するのは、
そのさらに少し後のこと…である。

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勝手にSWAT編と凍てついた船をシンクロさせてみました(自爆)。
「俺の負けですよ、“閣下”」以降の台詞はSWAT編の後編Bを参考にさせて頂いています。
いえ、カイザーとタヌーが仲が良いところを書きたかっただけです。ゴメンナサイ。
これからも、低ランクながらタヌーからの直接依頼が殺到しそうなので…
蒼城版の退治屋では…。(爆!)
しかしSWAT編、ネタの宝庫ですね…。
無許可で使いまくってごめんなさい、きのえね船長さん…。

  by bluecastle2 | 2006-02-06 04:38 | 凍てついた船【退治屋】

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