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第17話:散らかった室内

「とりあえず玄関閉めるか」
家に侵入してすぐ、
カイザーは銃でデジタル・ロックの操作パネルを撃ち抜く。
耳に障る警報音が鳴った後、ドアは厳重にロックされた。
これで外のチンピラ警備員は正面から中に入ってこれない。

家の中はコードだらけ、コンピュータだらけだった。
…最早どこに廊下があり、どこからが部屋なのかわからない状態だ。
広い家に住んでいながら玄関からこの状態なのだから、
どこも酷い有様なのだろう。
「警備員雇う金があるなら、ハウスキーパー雇えっての」
カイザーは舌打ちする。
実際、床にぶちまけられているコードのせいで動きづらいのだ。
「これ、嫌な電波出てるニャ!」
ミーナが山のように積まれたコンピュータを指して言う。
「よし、ぶっ壊しとけ、ミーナ」
彼女が電波を感じるということは、このコンピュータの山は
今も“蟲”を発信している可能性が高い。
「任せるニャ!ニャニャ張り手究極奥義!」
ミーナが張り手の構えに入ると、カイザーとフェイスはその場を少し離れた。
「ジャイアント張り手ー!」
その大きな猫手から繰り出される張り手の破壊力は凄まじい。
コンピュータの山は“ドガシャーン”と気持ちのいい音を鳴らして崩れる。
勿論一撃でお陀仏だ。
「…へへへ、いい気味!」
カイザーは両手を腰に当てる。
壊れた衝撃で飛んでくる破片や部品を、フェイスは剣の側面で叩き落とした。

崩れ落ちたコンピュータの山の中から、カーズが姿を現した。
「よぅ、パソコンオタク。早々に手詰まりだな」
カイザーはカーズに銃を向ける。
「もう必要なデータは解析した!
カイザー、お前は蟲に感染していないフェイスに私を
捕らえさせるつもりらしいが…私がそう易々と捕まると思うか!」
カーズは壁に掛けてあるサーベルを手にした。
このコンピュータだらけの部屋には似合わない装飾だが、彼の趣味だろうか。
「あっ、剣だ」
ミーナが指をさす。
「フェーイス。あと、頼んだ」
カイザーは銃を下ろすと、全てをフェイスに任せる。
「わかった」
フェイスは言われると同時に、カーズに向かって行く。

「さて、この違法なコンピュータの数々の存在を
タヌーに知らせておくか」
カイザーは戦況も気にせずに家の奥へ歩いていく。
「タヌー閣下に直接通信するの?いいの?」
ミーナもカイザーについてくる。
「別に、この家の事だけなら下っ端でもいいんだけどよ。
サラ達の事があるだろ」
夢の星の研究者を、“ただの”重役に任せるわけにはいかない。
それでは300年以上前、サラやシャルト達が恐れた
悪夢が真実になってしまうだけだ。
「そっか……。伝説になってただけに、
そんなのが見つかったってわかったら、閣下に情報を通さずに
独り占めしたり商売したりしようとする馬鹿が出てくるんだニャ?」
「ああ…」
人類は数百年の時を経ても変わることはない。
競い合い、争い、奪い合うことで技術を高めてきた。
それは恐らく、この先も変わらないだろう。
「おっ、あるじゃねーか。まともなパソコン。壁際に追いやられてら」
この家にあるのは変に改造を施されて
操作方法を考えたくもないようなコンピュータが多かったが
なじみの型のものをようやく見つけることができた。
カイザーは通信の環境が整っていることを確認すると、パスコードを入力する。
『グリーンマスター・カイザーさん。
どのようなご用件でしょうか?』
モニタに通信担当の女性の姿が映り、マニュアル通りの言葉を言う。
「コンピュータ・ウイルス系の人工の“蟲”を確認した。
解析はまだだが多分新種だ、タヌー・ゼステロージに繋いでくれ」
『解析がまだなのでしたらまずはリブフリー社にサンプルをお持ち下さい。
本当に新種かこちらで調べます。未登録の新種の蟲を発見されました場合
発見した退治屋には蟲の危険度に応じた報奨金が…』
「ごたくはいいから、タヌーに繋げろ!」
カイザーは壁を叩く。
『困ります、タヌー閣下は…』
女性が困った顔で受け答えするが、その途中でモニタの映像が切り替わった。
映ったのは、リブフリー社のトップたるタヌー・ゼステロージだ。
『カイザー。久しぶりですね』
「タヌー!おおっ、よくわかってんじゃねーかっ!」
カイザーは笑った。

  by bluecastle2 | 2006-02-06 05:52 | 凍てついた船【退治屋】

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