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第21話:人間になりたぁい

 『あーちゃんもう限界!もう限界!!』
警報音を鳴らしながら、あーちゃんが叫んだ。
「なっ!?もう時間か?」
思ったよりも早い警告に、皆焦る。
『……あと1時間だじょ』
あーちゃんが言うと警報音が止まった。
「…………」
カイザーの顔が呆れ顔になる。
場はしぃんとなってしまった。
『びっくりした?びっくりした?』
「OSのくせに変な冗談言うな!」
『だってあーちゃん、人間になりたいんだもの』
「……くっそー…」
それにしたってタチの悪い冗談だ。
カイザーは頭をガリガリ掻いた。
「す、すごいOSですね…」
シャルトは、モニタに映っているあーちゃんをまじまじと見つめる。
ミーナを初めて見たときの目とそっくりだ。
あーちゃんにも興味津々というわけか。
「全く…。…あぁそうだ。
もうすぐリブフリーの連中がこの船の保護に来るとは思うが、
万が一電源が完全に落ちるとここはどうなるんだ?」
カイザーが訊く。
「そうですね…コールドスリープ装置だけは困ります。
覚醒の為の温度調節は絶妙ですから、
いきなり電源が切れると死者が出るかも…。
他は、停まってしまってもさして困らないでしょう」
シャルトが説明した。
「そうか…ん?そういやこの船、
セーフモードとかなんとか使えるんだっけか?」
「そうですね」
「あっちゃー。それ使ったらもっと保ったんじゃないか?」
カイザーは額に手を当てて背中を反らした。
「…あ…言われてみれば」
シャルトは手をぽむ、と叩く。
「あーちゃん、セーフモードやれ。今からでも遅くねぇ。
それでもっと保つだろ、バッテリー」
『りょーかーい』
船内の明かりが落ち、また薄暗くなった。
「凄いですね…。まさかそこまでできるとは思ってませんでした」
シャルトが言う。
「ん?何が?」
「“あーちゃん”ですよ。人工知能の研究はなかなか進まなかったんです。
やっぱり300年って長いんだなぁ」
「…………」
必要に迫られれば、技術は必ず発展する。数々の犠牲を払いながら。
今この宇宙が目指している“発展”と、
かつてスイーズ星が目指し、
実現してきた“発展”は微妙に異なるのかも知れない。


 カイザーはコントロール・ルームの立派なソファに
バフッと音を立てて乱暴に座った。
「んー快適快適」
カイザーは鼻歌を歌っている。
こんな立派なソファに座る機会もそうそうない。
妙な機械に繋がれていなければ、気楽なものだ。
「カイザー。リブフリーの連中には俺から話しておこう」
フェイスが言った。
「ん?いいのか?」
「カーズの危険思想についても、
闘った俺が一番よく聞いていただろうしな」
フェイスはまだ気絶しているカーズを見る。
勿論、無造作に床に転がしてある。
「そーか。そうだな。じゃ、俺はこの超豪華ソファを
独り占めして昼寝でもするとしよう。起こすなよ?」
カイザーは背もたれにもたれかかって偉そうな態度を取ってみせる。
「ああ、邪魔はせん」
言うと、フェイスはコントロール・ルームの扉を閉めた。
開けるのには研究者専用のパスコードが要るらしいが、
閉めるのは簡単だ。パネルに“Close”と書かれたキーがあるのだから。
「フェイスさん、何をしてるんですか!
扉は一度閉めたら私達じゃないと開けられないのに…」
シャルトが慌てて、パスコードを入力し直す。
その手を、サラが掴んだ。
「サラ?」
「よしましょう。
カイザー殿は意地っ張りな方…そうなのでしょう?
…フェイス殿」
サラはフェイスに言う。
「…ああ。救いようもないほどに」
「心配もさせてくれないニャー。
お陰で私達、いつもハラハラドキドキだニャ」
ふたりは即答した。

 それから数時間後、リブフリーの斥候達が次々到着、
船内の安全を確認した後に大きな宇宙船と乗組員達は
“保護”されることになった。

  by bluecastle2 | 2006-02-06 05:48 | 凍てついた船【退治屋】

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